優しい楽園を― BALDRSKY DIVE.1「LOST MEMORY」+ DIVE.2「RECORDARE」/戯画

BALDR SKY DIVE.1「LOST MEMORY」+ DIVE.2「RECORDARE」/戯画

ご無沙汰しています。今回はバルドスカイの雑感でも。例によってネタバレがありますので、ご了承ください。


はじめに
バルドシリーズに触れたのは久々で、最後にプレイしたのがリベリオンでした。リベリオンが個人的にあまり良い出来ではなかったので、大した期待もせずにプレイしはじめましたが、これが大変面白かった。進めるうちに少しずつわかっていく真相、ループなのか平行世界なのか、ミスリードも用意しながら展開される物語は要求を満たしてくれるものだったと思います。ただ、ACTパートが多すぎた気もしますが…


構造
構造として、本作は面白い形を取っています。1〜5までは、順調に物語を積み重ね、6=空ルートでは、それらの積み重ねをなかった事にしてしまう。いや、正確にはなかったことにはしていないのですが、積み重ねというよりは並行にしてしまった。ここら辺が、プレイヤーにとって評価の差がでる部分じゃないでしょうか。確かに、わたしも5章までの積み重ね、その上で、満を持しての空ルートと思っていましたので。言ってしまえば、真ルートまででバルドスカイは一つの終りを見せてしまいます。そして、そこから先は、プレイしての通り本当に甲にとっても空にとっても過酷な物語だと。5と6の間にある隔たりは、他の数字との間にあるものとは断絶しています。ある意味甲にとって、5で終わらせておくことが幸せだったのかもしれません。少々それてしまいましたが、1〜6ではなく、1〜5と6、この思考が必要なのではないでしょうか。多少強引にでもそれをプレイヤーに強いたため、このような構造になったのではないかと。


エロゲーとしての面白さ
エロゲーの面白さは個人的には2通りあると思っています。1つは、作品のシナリオを練に練りこんで、仕掛けで驚かせたり、あるいはプレイヤーの心を揺さぶったりするパターン。こちらは、正統派と言いますか、そもそものシナリオに力がなければ成立しないので、ライターの実力が大きく影響します。もう1つは、演出で見せるパターン。こちらは、例えば、音楽ですとか、ムービーですとか、またはそれらの要素をどこで表現するか、ということで、主にシナリオ外の要因によって構成されます。エロゲーというのはこれらの両方の要素がからみ合って作品を形成しています。シナリオだけ面白くても、演出だけ良くても、高い評価を得られるわけではありません。その上で、誤解を恐れずにいうならば、バルドスカイは演出の物語だったなぁと思っています。読み進めていくうちに、物語によっては敵とぶつかることもあるでしょう。そんな時、実際に自分がプレイヤーキャラクターを操作してその敵を倒すことができる。これはかなりの快感です。また、ここで聴きたい、というBGMが絶妙なタイミングで流れてくるのも素晴らしいなと思いました。もちろん、シナリオが一定以上のレベルに到達しているのは間違いないのですが、そのシナリオに関しても、積み上がってくるもどかしさや辛さを、最後の瞬間に解放できるような(=プレイヤーがカタルシスを得られるような)構造になっているので、うまくACTというシリーズの売りと絡めたなぁという印象です。


ACT
アクションパートがバルドシリーズの売りなのが間違いないのですが、本作ではなんだかテンポが悪く感じてしまいましたね。不必要な戦闘が多かったというか。わかりやすく言うと、物語のスピード感を損なうような配置が多かった。もちろんボス戦なんかは、BGMも込みでいいタイミングで仕込まれていたように思いますけれど。こればかりは、ゲームとしての楽しさを、アクションとADVどちらに見出しているのかにもよりますね。


総括
アダムとイヴ的な作品にほとんど触れていなかったせいか、最後のシーンはちょっと感動してしまいました。また、それだけがすべてではなくて、並行した世界では、それぞれのヒロインと幸せな未来が広がっているのが非常に良い。それをしっかり物語で表現して救っているところも。また、記憶遡行…というより、記憶の原風景が学園にあるところも好ポイントです。プレイヤーとして灰色のクリスマスが待っているのはわかっているのですが、それでもその瞬間瞬間を生きる若者というのは見ていて気持ちが良かった。記憶遡行では、重大なイベントなんてほとんど起きているわけではないのですが、徒然と続いていく日常。だからこそ、主人公の依り処になったのでしょう。青春にはそれだけで価値があるということを、改めて思い知りました。同時に、失われたものを取り戻そうという様は、なんとも健気で切ないものだと。バルドスカイはACTが面白ければ、それでいいやと思っていましたが、シナリオ面でも想像以上に楽しませてもらったので大変満足しています。逆に肝心のACTパートにバランス調整的な難があったように思いますが… それにしても、バルドシリーズは卑影ムラサキ氏ありきだなぁと思い知らされました。丸戸史明氏が離れている今、戯画の期待というのはほとんど彼が引き受けているのではないでしょうか。チームバルドヘッドの次回作にも期待します。


そういえば、最後に出てきたギガマインってなんの自虐なんでしょうね。さすがに笑ってしまいましたけれども。メガマインからギガマインに進化したよっていうだけではないと思いますが(笑)