記号からの脱出劇 あると/Purplesoftware

前回の記事 エロゲの買い方をFiRSTRoNさまをはじめ、各サイトさまに取り上げていただきました。ありがとうございます。人によっては、キャラが第一!という人や、完全にライター買いしかしない人も居て、やっぱり単純に割り切って考えられない問題なんだなと再認識しました。


というわけで、ようやく終わったあるとの感想です。


あると/Purplesoftware


岩崎孝司さんの原画に惹かれて、絵が楽しめればいいやという感覚でプレイしていたのですが、物語を進めていけば行くほどに違和感を持つようになってしまい、絵を楽しむ以上にそちらが気になってしまいました。その違和感の正体というのを突き詰めるというわけではないですが、少し掘り下げてみようかと。ちなみにその辺はネタばれなしなので興味のある人はどうぞ。


「あると」minori酒井伸和氏のキャラクター論(※1)に影響を受けており、キャラクターの記号化という要素を排除した作品に仕上がっている。そう、この既存のキャラクターから脱するという試みは、なるほど素晴らしいかもしれない。しかし、それを脱するには相応の力というのが伴っていなければならないのではないか。minoriで言えばef。壮大なスケールに乗せて物語が進行していくわけで、シナリオ、演出面、音楽、キャラデザ、どれをとってもトップクラスである。実際には、あるとはefよりも前に発売された作品だが、minoriはそうした方向を元々意識していた。だから、キャラクター造詣にこだわりがあるのは当たり前だし、それがブランド色といえる。あるとは、キャラクターに違和感を持たせないということを考えすぎて、かえってエロゲーとしては失敗してしまった。マンネリ化を排除してしまったせいで、逆に普通の物語、本当にありふれた作品になってしまったように思う。お約束というのはある種、鉄板ということもできるわけで、ありふれていることの全てが悪いわけではもちろん無いはず。決して、nbkz氏の発言を間違っているとか、そういったことを言いたいわけではないのだけれども、あの発言は自分たちのやっていることに本当にこだわりと自信があるからこそ言えるわけで、Purplesoftwareならば、Purplesoftwareなりの自分のたちの答えを見つければよかった。そういう意味では、ブランドとしての試行錯誤があったのではないかと思う。(ちなみに、個人的にはPurplesoftwareが追求してできた傑作は「明日の君と逢うために」だと思ってます。)ここまで散々言ってきましたが、はっきり言ってそもそも「あると」ぐらいのキャラクター設定ではまだまだ脱マンネリなんていえない。だったら主人公の両親だって家にいるべきだし、家族を描くならばヒロインの姉妹だけでなく、その両親も描くべき。都合の良い要素がぽつぽつと見当たるもんだから、余計に目立ってしまう。徹底さに欠けていたのも残念。


※1 最近のアダルトゲームは義妹・幼馴染・奇妙な口癖・ツンデレといった記号を繋げてキャラクター作りをしているだけで個性が無い、という意見。


今回はキャラゲーというジャンルで脱マンネリに挑戦してしまったことが冒険過ぎたのかな。シナリオに関してもありがちな展開というか、目を見張るようなシナリオはありませんでしたし。シナリオが優れている作品というのと、キャラクターの魅力に満ちているというのは、ほぼイコールで繋がるものだと思うので、単純にキャラゲーで失敗しないためにはある程度のマンネリも必要なのかもしれません。難しい。


>ここからネタバレあり


というわけで、やっとキャラクターについて。今回は前口上が長すぎたかな。気になった場面や展開などピックアップしてみました。


・瑞穂に告白する将人と、将人に告白する千歳
とりあえず答えは先延ばしにしようというのは、この世界の流行なのかと思いました。将人が平行世界の旅人で、他ルートでの記憶を持ち越せるとしたらこんなことはないだろうに。瑞穂に告白して返事をもらえない辛さというのを、そのまま他ルートで千歳にぶつけてしまった、と感じるのは、瑞穂→千歳の順でプレイしてしまったからということにしておきましょう。自分の気持ちが何なのわからないというのは、やっぱり一つの逃げの形だと思います。瑞穂先輩は逃げることに正直すぎる。


・お守り
千歳ルートの最後のくだりで出てくる実は沙織さんが作ったというお守り。それを将人からもらったのが千歳にとって大切な思い出になっている。さて、このお守りを沙織が作ったというのは何か意味があるのでしょうか。沙織さんへのあてつけで、千歳への愛を証明するのはちょっと残酷過ぎかも。


・翔子と将人の関係
依存してしまう恋愛は良くないって自分たちで理解できている二人は素晴らしい。恋愛関係というのはとても難しくて、一歩間違えれば依存になってしまう。相手のことを支えてあげたいという思いは大切だけど、そこから相手に支えてもらえるのが当たり前に変わってしまうのが、信頼から依存への変化なのかな。


・恵と沙織、沙織と恵
姉にコンプレックスを感じている妹、というのはよくある定番だけど、変にドロドロしなかったのは、根底にはお互いを好きって思う気持ちがきちんとあるから。相手のことを大切に思っていても、ちょっとしたことで嫉妬してしまうとか、羨ましいって思うなんて誰にでもあることじゃないですか。それでも、沙織は恵のことを過保護にしすぎか。恵が大人だったからこの二人の関係はそこまでこじれることはなかった、その言葉に尽きます。


全体的に批判の要素が強くなってしまったのですが、たぶん色々なことを気にしなければもっとずっと楽しい作品だったんだと思います。色々なことを考えながらプレイすると余計なことまで目に留まってしまうというか。それが悪いわけではないはずだけど、たまに鬱陶しいと思うこともあります。ところで、本作には「みはる」というファンディスクがあって、せっかくだしそちらもやろうかなと。学生会のメンバーで唯一、美春を攻略できないのがあからさま過ぎていやらしかったのですが(笑)